| (2)土砂災害の素因と誘因 |
| 前回は、過去の野外活動中の災害事例とその経過についてご紹介しましたが、森林インストラクターが土砂災害に遭わないようにするためには、土砂災害について興味を持ち、識ることが必要です。 |
■宮崎県諸塚村を訪ねて
本題からやや外れますが、私は、7月29日から31日まで、宮崎県諸塚村で開催された第12回森林文化教育フォーラム(主催:森林文化教育研究会・宮崎県・諸塚村、後援:林野庁、環境省ほか)に参加しました。地元及び全国から約300人が参加し、今回は、九州の森林インストラクター数名にも参加していただきました。諸塚村は、標高200mから1000mの山村で、森林率95%、家屋は斜面にへばりつくように建ち、道路の下側の家はほとんど2階に玄関があります。人口2300人、産業は「用材」と「シイタケ」と「茶」と「畜産」の4品目の複合経営のみです。
戦後、独自の自主公民館活動により人づくり道づくりを営々と続け、全国1位の林道高密度路網を完成し、厳しい山村の条件に立ち向かった歴史と自他共に認める実績のある村です。スギ・ヒノキの常緑針葉樹とクヌギなどの落葉広葉樹がパッチワーク状に広がるモザイク状の森林景観は全国に紹介され、全国の小学校の副教本にも広く使われています。
12年目を迎えるこのフォーラムの2日目は、現地研修のエクスカーションですが、毎回、私の呼びかけで早朝観察会を実施しています。今回は、福岡森林インストラクター会の岩崎氏並びに藤井氏のご援助をいただきとても意義ある観察会となりました。眼下に広がる雄大なモザイク林形を眺めている時、「このような森林のつくり方は災害に強いのですか」という質問がありました。(※右下の写真:宮崎県諸塚村のモザイク状森林。シイタケ栽培団地が中央下部に見える)
■モザイク状の森林の強さ
モザイク状の森林管理は、針葉樹と広葉樹という区分だけでなく、良く観察すると、針葉樹の区域や広葉樹の区域それぞれが、樹種や林齢が異なるパッチワークに区分されていることが分かります。森林の土砂崩壊防止機能は、根系による土壌の緊縛力が大きくなる林齢30年から40年以上の混交林が高いと言われますが、林地をモザイク状に整備することにより、次の2点の理由で、強い山ができると、地元の小学校の先生などの参加された方々に説明しました。
(1)地質や地形、傾斜に合った適地適木により、強い森林ができる
(2)林地は伐採後、5から10年経つと伐採木の根系が腐朽し、一番災害に弱くなるが、モザイク状に区分することにより、土砂災害の危険を小さくすることができる。
諸塚村のような山村では、住民や子どもたちにとってもっとも大切なことは、土砂災害から安全を確保することであると思います。土砂災害教育は、山地斜面の下で生活する人々すべてに必要なことであり、森林インストラクターとしても大きな関心事としたいものです。近年、諸塚村では、シイタケ原木林の縮小傾向の予測からクヌギを伐ったあとスギやヒノキを植える傾向があるとのことですが、これは、将来、山を弱くすることにつながり、重大な問題にならないよう祈りたいと思います。
(※写真右下:宮崎県諸塚村・帯状皆伐の林)
■幸田文著「崩れ」より
幸田文の晩年のエッセイ「崩れ」は、全国各地の大崩壊地を、72歳を超えた作者が、林野庁や建設省の協力により取材した記録をもとにしたもので、講談社から刊行されています。その中で作者の工事事務所所長に対する問いかけがあります。
『「だいたい、崩れるとか、崩壊とかいうのは、どういうことなんですか」そうねえ、と所長さんはちょっと間をおいて、地質的に弱いところといいましょうかねえ、という。ふしぎなことにこの一言が鎮静剤のように効いて私は落ち着いた。はっきりいえば、弱い、という一語がはっとするほど響いてきた。私は崩壊を欠落、破損、減少、滅亡というような、目で見る表面のことのみ思っていた。弱い、は目に見る表面現象をいっているのではない。地下の深さをいい、なぜ弱いかを指してその成因にまで及ぶ、重厚な意味を含んでいる言葉なのだった。』(原文どおり)
■「素因」と「誘因」
土砂災害は、先日、7月20日未明の熊本県水俣市の多数の人命を奪った土石流の例に見られるように、想像を絶する暴力的な力として感じられますが、その原因は、「脆弱な土質」、「断層」、「節理」、「キャップロック」、「不連続な層序」などの「目に見えない地質的な弱さ」に起因しており、これを崩壊の「素因」と呼びます。そして、崩壊を引き起こす直接キッカケとなる「集中豪雨」、「地震」、「地下水」などを「誘因」と呼び、「素因」と「誘因」が合わさって崩壊が起こります。
■「山崩れの国」日本の森林インストラクター
日本は森林国であると同時に山国であり、また、地質、地形、気候的な条件から「山崩れの国」といえます。山をフィールドにする森林インストラクターは、常に、土砂災害と背中合わせにいます。
森林インストラクターとして、崩壊の「素因」と「誘因」が身近に迫っていることを感知する敏感な能力=「土砂災害の危険に対する感性」は是非必要なものであり、この感性は、日頃から地質や地形、崖や崩壊地、気象の変化などに対する継続的な関心・情報収集・野外活動における早い判断を心掛けることにより養われると考えます。
限定した場所に関していえば、「災害は忘れた頃にやってくる」一面がありますが、日本の全国各地では、土砂災害が継続的に起きており、また、同一の場所においても、崩壊は繰り返し起こるものであることが明らかになっており、学ぶ素材はいくらでもあります。
崩壊と地殻変動の集積が現在のその地域の地形であると考えて森林を見ると、多くの場合、その地域の植生からも崩壊を知らせる前兆を読み取ることができます。
このようなことに関心を持つことは、森林インストラクターとしての話題を豊富にするだけでなく人々の生命や財産を守る大きな公益につながります。
次回は、まとめとして、我々森林インストラクターが、その活動の中で土砂災害に遭わないようにするにはどうすれば良いか、具体的に考えてみることとします。
寺嶋 嘉春(てらしま よしはる) 森林インストラクター |
先月までの掲載: (1)野外活動中の土砂災害の事例 ▼HOME▼ |
全国森林インストラクター会 〒112-0004 東京都文京区後楽1-7-12林友ビル6階 (社)全国森林レクリエーション協会内 |