Newsを考察2025年6月

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2025年6月　保持林業から生物多様性の価値について考える

今月は保持林業が鳥類の多様性の保全に効果の検証に関する記事から、生物多様性の価値について少し考えてみたいと思います。

■保持林業の生物多様性の維持に関する調査
保持林業が鳥類の多様性の保全に効果があることが四国の森林で確認されたそうです（参考文献１）。保持林業は森林主伐時に生物多様性の保全を目的に、樹木の一部を残す森林施業です。北海道のトドマツ人工林での実証検証で、保持林業が生物多様性の保全に役立つ効果が示されていました。今回は高知県のスギ・ヒノキ人工林において、保持伐地と皆伐地で鳥類の音声を録音して広葉樹の保持が鳥類多様性に与える影響を分析し、保持林業の実施が10 月の場合に種数や多様性度合を示す指数を増加させる可能性が示されたそうです（参考文献２）。

■保持林業とは？
保持林業は国によっては森林認証の認定要件に採用されるなど、近年、日本でも注目されています。日本には保残林作業や択伐など、一部の木を残して伐採する考えがありま。しかし、保持林業では残す木を生物多様性の維持回復を目的に決めるところが異なります。一方で、近年の研究では、林業としての生産性への影響、生物多様性の保全効果の条件による違い、など保持林業の課題も指摘されています（参考文献３）。

■生物多様性の価値の試算と実現可能性の提案
保持林業を林業の施策の一つに組み入れるには、事業の継続性を分析する必要があります。そのためには生物多様性を示す多様な生態系サービスを保全する経済的な価値を定量化し、経済的に回る仕組みを考えることが有益です。自然の恵みの価値を定量化する取組みは社会経済学の分野で行われてきました（参考文献４）。保持林業の検討にあたっては、保全された生態系を人々が直接または間接的に利用することで得られる利用価値に、利用しなくてもその自然を保全することで発生する非利用価値を加えた分析が行われ、生態系サービスの保全に対価を支払う生態系オフセットなど複数の経済的な仕組みが提案されています（参考文献３）。

■重要な非利用価値
森林の生態系サービスに関する一般市民の価値観を分析した研究からは、生態系保全機能など非利用価値が重要な役割を担うという試算が示されています（参考文献５）。森林の様々な魅力の経済価値の分析が進み、持続可能な森林施業の実現性が高まると良いと思います。

参考文献１：国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所「スギ・ヒノキ人工林における広葉樹を残す保持林業と鳥類保全(2025/4/23）」(2025年5月13日閲覧)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2025/20250423.html

参考文献２：髙木麻衣那, 山浦悠一, 富田幹次「スギ・ヒノキ人工林における保持林業が鳥類多様性に与える影響」日本森林学会誌106巻11号p. 306-310 (2024)(2025年5月13日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs/106/11/106_306/_pdf/-char/ja

参考文献３：尾張敏章「書評　柿澤宏昭・山浦悠一・栗山浩一編『保持林業―木を伐りながら生き物を守る―』」林業経済, 72 (3),(2019) (2025年5月13日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinrin/72/3/72_23/_pdf/-char/ja

参考文献４：環境省自然環境局「自然の恵みの価値を計る」 (2025年5月15日閲覧)
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/index.html

参考文献５：岩田健吾、藤野正也、栗山浩一「森林生態系サービスの経済価値評価」, 森林応用研究30巻1号, p.1-10, (2021) (2025年5月19日閲覧)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/applfor/30/1/30_1/_pdf/-char/ja